大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)647号 判決

第六四七号第六四八号控訴人 宇田靖

第六四七号控訴人 宇田工業合名会社

右代表者代表社員 宇田裕一

第六五九号控訴人 宇田裕一

第六四七号第六四八号第六五九号被控訴人 国

右代表者法務大臣 田中伊三次

右訴訟代理人弁護士 岡本拓

右訴訟復代理人弁護士 堀弘二

指定代理人法務事務官 谷旭

第六四七号第六四八号第六五九号被控訴人 宝泉商工株式会社

右代表者代表取締役 仕田原節子

右訴訟代理人弁護士 赤鹿勇

同 塚本美弥子

同 田村敏文

同 丸山英敏

弁護士赤鹿勇の訴訟復代理人弁護士 安保晃孝

第六四七号被控訴人 藤原馨

主文

一、本件控訴をいずれも棄却する。

二、控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一、求める裁判

六四七号

(控訴人靖、控訴会社)

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人国、被控訴会社、被控訴人藤原は連帯して、

1、控訴人靖に対し八一六万三、四〇〇円およびこれに対する昭和三五年五月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、

2、控訴会社に対し一、六七八万四、七八四円およびこれに対する昭和三六年一月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を

各支払え。

三、訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(被控訴人国、被控訴会社、被控訴人藤原)

主文同旨の判決。

六四八号

(控訴人靖)

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人国、被控訴会社は連帯して控訴人に対し一〇〇万円を支払え。

三、訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(被控訴人国、被控訴会社)

主文同旨の判決。

六五九号

(控訴人裕一)

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人国、被控訴会社は連帯して控訴人に対し一八〇万円およびこれに対する昭和三八年五月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(被控訴人国、被控訴会社)

主文同旨の判決

第二、当事者双方の主張ならびに証拠関係は次の点を附加するほか、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。

(控訴人らの主張)

一、本件物件は控訴会社の本店所在地たる泉佐野市南中安一、一〇八番地上の工場建物内に設置されていたもので、控訴会社の所在地を明示するため看板を国道に面した工場正門の柱に掲示していた。また、事務所内には控訴会社を営業者とする織機登録証があり、米井執行吏はこの登録証の下に差押の公示をしているのであるから、同執行吏は本件物件の占有が控訴会社に帰するものであることを知っていなければならない。控訴会社が本件機械をもってタオルを製造していることは外観的にも極めて明白である。したがって、米井執行吏が本件物件が控訴人裕一の占有にあると認定し、差押えたのは故意又は過失に基づく違法な行為である。

二、控訴人裕一は控訴会社の営業責任者として昼夜にわたる内外事務処理のため止むなく工場敷地内の事務所二階の二部屋で妻とともに起居し、事務所の入口の向って左上の柱に自分名義の表札を掲示していたにすぎない。事務所は幅二米の廊下をもって本件物件の所在場所である工場建物とは区切られている。このようなわけで、本件物件の設置場所が控訴人裕一の住居とするのは実験則、経験則上も不当である。米井執行吏が控訴人裕一の住居として立ち入り、差押執行をしたのは憲法二九条(財産権不可侵)、三五条(住居不可侵)に背反し、刑法一三〇条に該当する。

三、本件物件はもと訴外合名会社宇田織物工場の所有物件であったが、同社の解散により控訴人靖がその所有権を承継したものであって、いまだかつて控訴人裕一の所有であったことはない。控訴人裕一が家財道具を入れていたのは、事務所より三〇米離れた倉庫であって、その家財道具も日常使用しない物である。その倉庫は控訴会社の占有使用中のものであって、米井執行吏は執行当時には家財道具の存在につき確認をしていない。したがって、同執行吏は控訴人裕一の占有状況につき調査を怠って本件執行におよんだものといえる。

四、控訴人靖は、本件差押後、大阪地方裁判所岸和田支部に第三者異議の訴を提起し、本件物件につき強制執行停止決定のため昭和三五年四月二六日に同月二八日までに二〇万円の供託を命ぜられたが、同月二七日午前中に右供託をし、停止決定正本を得て提出する旨を口頭をもって執行吏に伝達していたのである。また、四月二八日までに担保を供し、強制執行停止決定を得られる期限の利益が控訴人靖に付与されている以上、控訴人靖の右権利は守られなければならない。執行吏はその担保提供の期限まで強制執行を停止させておく責任がある。さらに、本件物件は訴外鐘淵紡績株式会社を抵当権者として工場抵当法による抵当権を設定した際、同法三条の目録に記載して提出している。そこで、同訴外会社は昭和三五年四月二六日に本件差押が同法七条二項に背反するものとして差押解除申立書を執行吏に提出している。そのほかに、控訴人靖は昭和四五年四月二〇日付内容証明郵便をもって米井執行吏にあてて本件物件が同じく工場抵当法による目録に記載されていることなどを通知している。本件差押が工場抵当法七条に違反し、不当なものであることは明らかであり、競売実施前には少くとも執行吏はこのことを知っていたものである。同法三条による提出目録は登記簿の一部とみなされ、公示力を有するから、執行吏が目的物件たることを知らない筈はなく、仮りに知らなかったとするならば過失が存する。いずれにせよ国は控訴人らの損害につき賠償すべき責任がある。

五、京屋新一執行吏代理は競売実施にあたり関連法規を殆んど履践していないにも拘らず、競売調書には適式に競売を実施した如くなされている。

1、本件競売実施の場所は物件の所在地たる工場内でなく、別の建物内で行われた。

2、本件競売はわずか一分間で終り、所謂「せり」を行っていないし、落札価額の呼上げもしていない。したがって、民訴法五七七条に違反している。

3、本件競売には岩淵キヨ子は立ち会っていないにも拘らず、競売調書には同女の名があり、署名もあるが、同女は署名をしていない。また京屋代理は民訴法五三七条に反し債務者側の証人の立会いを求めていない。高井昭次は債権者代理人であり、かつ、悪質な立会人であり、同じく黒谷昭光も悪質な立会人であるから、いずれも証人資格はない。

六、本件競売価額四五万五、〇〇〇円は低く、相当ではない。本件の場合、民訴法五七三条により執行吏は鑑定人をしてその評価をさせるべき事案である。然るに、本件競売にあたっては鑑定をしなかった違法がある。米井執行吏は本件のような機械器具の知識は皆無である。本件物件のうち、紋織機を差押調書に絞り織機と記載していることからしても明らかである。本件物件の競売価額は何を根拠として算出されたか全く不明である。仮りに、民訴法五七三条にいう高価物でないにしても憲法二九条に保障された国民の財産権を守る責務が裁判所に存する以上、執行吏においては公正な執行をするために適当な鑑定を求むべきが至当である。本件競売価格は機械類を屑鉄とみてもそれ以下の価額である。よって、本件競売は憲法二九条に違背するものである。

七、民訴法五六四条二項には、差押は債権弁済のため、執行費用を償うために必要なるもののほかに及ぼすことを得ず、としている。そして、控訴人裕一は被控訴会社に対する債務一〇〇万円につきすでに元利金の内入弁済として五三万円を支払い、差押費用などは六、八二二円であるので、右弁済金のうち二〇万円を元金に充てると残債務八〇万円と右費用分だけの価額を有する物件を競売すれば足りる。然るに、米井執行吏は一、五〇〇万円相当の物件を差押えているのであるから、違法な差押というべきである。本件物件につき昭和三二年六月に鐘紡が工場抵当法に基づき債権額四五〇万円の抵当権、同じく昭和三四年に富士紡績が第二順位で極度額五〇〇万円の根抵当権を各設定していることからも、本件物件価額が一、〇〇〇万円相当のものであることが明らかである。

八、本件競売の実態は不正談合に基づく「なれあい」競売である。すなわち、執行吏は物件についての知識が皆無であるのにも拘らず、わずか一分間で競売手続を了していること、暴力執行立会常習者が競落していること、債務者側の立会いもなく、一方的に、競落人、被控訴会社が依頼した人夫、手配師を証人として立ち会わせていることからも違法の競売であることは明らかである。

九、被控訴会社は本件物件に対する工場抵当法に基づく根抵当権者であるから、本件物件の所有者が控訴人靖であることおよびその実価額を知っている。差押にあたっては、被控訴会社の社員が先導し、殊に、執行吏に対し本件物件が被控訴会社の抵当権の目的物であるが差押をするように要求した事実がある。

一〇、本件競売は米井執行吏役場において民訴法五七六条による公告をしていない違法の点がある。

一一、そのほかに、本件執行の違憲違法の点は次のとおりである。

1、控訴会社の営業権を侵害し、その事業の潰滅を招来している。

2、憲法二七条により保障された従業員の勤労の権利を不法に侵害している。

3、控訴会社の本件物件に対し有する賃借権を侵害している。

一二、原判決は控訴会社および控訴人裕一の損害賠償請求につき審理することなく棄却していることは憲法三二条により約束された控訴会社および控訴人裕一の裁判を受ける権利を蹂躪する違憲のものである。

一三、また、原判決は民訴法一八五条の自由心証主義を濫用し、その法の精神を没却するも甚だしいものというべく、採証の法則を無視し、経験則、実験則を蹂躪した違法のものである。

(被控訴人国の主張)

一、控訴人靖は、控訴人裕一の子であって、控訴人らの主張する賃貸借当時は未成年者である。また、訴外宇田富子は控訴人裕一の妻であって、以上の三名は同一世帯に属し、夫婦親子として同居していたが、各自独立生計を営んでいた形跡はなく、生活上の主宰者は控訴人裕一であった。控訴人らが賃貸借の相手方と主張している控訴会社は控訴人裕一および右富子を社員とする合名会社である。

二、本件物件を含む工場各不動産の名義や、企業者の変更がなされた実情は次のとおりである。

1、工場敷地については昭和一一年九月一九日訴外宇田豊次郎(控訴人裕一の実弟)名義で所有権移転登記がなされている。建物については昭和一二年三月一一日に訴外合名会社宇田織物工場名義で保存登記がなされ、昭和二二年九月二六日に宇田秀三(秀三は裕一と改名)名義に所有権移転登記がなされたが、昭和二四年三月二二日に右工場にふたたび所有権移転登記がなされた。右工場が解散し、清算結了登記もすんだ後である昭和三四年八月二一日に控訴人靖に売買を原因として所有権移転登記がなされた。

2、右工場、豊次郎および控訴人裕一の名義をもって右各不動産を担保として大阪府中小企業信用保証協会らに債務を負担してきたが、本件差押当時には訴外鐘淵紡績株式会社に対する工場抵当法二条による抵当権設定登記と被控訴会社に対する根抵当権設定登記とが残存していた。

3、前記合名会社宇田織物工場は右豊次郎などを社員としていたが、昭和三三年一二月一五日に当時の社員控訴人裕一、宇田フサの同意により解散し、控訴人裕一が清算人となり、昭和三四年二月一九日に清算結了の登記を了している。一方、控訴会社はタオル等の製造販売を目的とし、控訴人裕一と妻富子を社員、控訴人裕一を代表社員として昭和三五年一月八日に設立登記がなされ、代表社員は控訴人裕一から妻富子に、さらに昭和三八年三月二〇日には控訴人裕一にと登記をしている。右工場解散後、控訴会社設立まで企業はどうなっていたかは必ずしも明らかでない。控訴会社が大阪地方裁判所岸和田支部に提出した上申書には「新会社設立まで約一年間従業員維持のため、大阪織物工場なる商業登記を行い、宇田靖を代表者として未成年登記をして、事業を持続することになり、旧会社の権利義務はすべて裕一と大成織物工場において承継され、新会社が昭和三五年一月誕生した」とあり、そのほか、公正証書の記載などより推察すると、複雑な事情があるものと考えられる。

以上の事情によると、工場不動産の所有や企業経営につき控訴人靖、合名会社宇田織物工場、大成織物工場、控訴会社名義を使用しているが、少くとも実際の支配者は控訴人裕一であり、このような関係者間での再三の名義の変更は異例のことで、単に、法律関係を複雑ならしめて企業を債権者の執行等より防衛保全する工作としてなされてきたものであることが明らかである。

三、控訴人裕一が巨額の債務に苦しんできたことは明らかなところである。控訴人靖と控訴会社との間の本件物件を含む工場建物などの賃貸借契約には敷金の支払いについて記載もないし、前記上申書には「控訴会社を設立し、同会社が控訴人靖名義で経営していた大成織物の残債務のうち一九〇万円を代位弁済し、そのうちから敷金や賃料の支払いに充当した」と述べているものの、一世帯にある夫婦親子の間でこのような金銭の授受がなされること自体異例のことであり、現実には控訴人裕一が名義上の操作を行っていたと考えるほかはない。

四、米井執行吏が本件差押をしたとき、立会の控訴人靖は本件不動産の所有関係については控訴会社のものであるとも、自己のものでこれを控訴人裕一が借りているかの如くも述べ、同執行吏が賃貸借の資料を提出するよう求めたが、控訴人靖においてこれを提出もせず、差押えをするに至ったものである。また、別件において田淵執行吏が昭和三七年二月三日に工場不動産などにつき控訴人靖を相手方として現状維持の仮処分の執行をしたが、その際立会の宇田富子は「現在工場は何人も使用していないが、所有者が靖なので同人に権利があることになると思う」と云う程度の供述しかしていない。そのほかに、別件不動産引渡命令執行の調書を綜合すると、本件物件などは控訴人裕一の占有にあったことは間違いないところである。

五、結局、本件執行について控訴人らより第三者異議の訴や執行方法に関する異議申立によって、執行停止決定が得られていない事情などを綜合すると、控訴人らが主張する権利関係はそもそも控訴人裕一が負債に苦しんだ結果、徒らに、権利関係を複雑ならしめて企業を防衛しようとした架空のものであり、仮りに、そうでないとしても他の控訴人らとはかつてなした通謀虚偽表示のものであって無効であることは明白である。これらの事情を勘案すれば、本件執行行為が適法であること、さらには控訴人らの損害の主張自体も失当であることは云うまでもない。

(証拠関係)≪省略≫

理由

第一、六四七号事件

原判決理由第一、一、(一)の記載を引用する。

一、控訴人靖の被控訴人国に対する請求

(一)  控訴人靖は、まづ、米井執行吏(本件強制執行のあったのは昭和四一年法律一一一号執行官法の公布以前で、執行吏と称していた。以下執行吏および執行官の職務上の権限一般につき述べる場合にも単に執行吏と云う。)が本件物件の占有が第三者たる控訴会社にあることを知りながら、故意に、又はその事実を知らなかった過失により本件物件を差押えたのは違法であると主張し、つぎに、本件物件が工場抵当法二条の抵当物件であることを知りながら、又はこれを知らなかった過失により本件物件を差押えたのは同じく違法であると主張するので、この点につき判断をする。

≪証拠省略≫によれば、米井執行吏は、差押当日の昭和三五年四月一九日午後一時四五分頃、債務名義記載の控訴人裕一の住所地に到着したが、工場の表門には控訴会社の看板が掲げられているものの、同控訴人が工場内事務室二階に起居をしていることを知っていたので同工場を同控訴人の住所と認めて同工場内の有体動産の差押えをするべく工場内に入った。たまたま、控訴人裕一は不在で、その場にいた同控訴人の息子である控訴人靖は米井執行吏に対して、工場内の機械類は控訴会社のものであるとか、控訴人靖の所有物件で控訴人裕一に賃貸しているものであるとか述べ、その云うところが一定せず、かつ、控訴人靖が二〇才前後の弱年で父である控訴人裕一から経済的に独立しているようには見えず、米井執行吏には右陳述が真実であることは極めて疑わしいものに思われた。他方、差押えに立会った執行債権者である被控訴会社の代理人は同執行吏に対して、被控訴会社が控訴人裕一に金を貸す際に、同控訴人は被控訴会社に対し将来同控訴人が会社を設立して同控訴人個人の営業や営業財産を同会社に譲渡するようなことはしないと約束したから、工場の表門に会社の看板が掲げられているのは、名義だけに過ぎず、工場内の物件はすべて控訴人裕一において占有使用している同控訴人の所有に属するものであると主張するので、米井執行吏は控訴人靖に対し控訴会社の存在を証する登記簿謄本をみせるように云ったが、同控訴人はこれを提出しなかった。そこで、米井執行吏は本件物件の所有や占有が控訴人裕一以外の者に属するような見せかけや言明はすべて執行を妨害するための虚構であって、真実には、控訴人裕一の占有に属するものと考えて、これを差押えた。差押当時、右工場内での仕事は主として控訴人裕一が担当しており、妻とともに前記二階に世帯道具を持ち込み、起居し、事務所裏側の二階建土蔵倉庫内に夫婦の財産を置いていたような実情であった。そして、右差押場所では誰も本件物件が工場抵当物件であることを米井執行吏に告げた者は存せず、そのほかに、本件差押えに異議をとなえるものもいなかったので、本件差押えは同日二時四八分頃に終了した。

以上の事実を認定することができ(る。)≪証拠判断省略≫ ≪証拠省略≫によれば、控訴会社名による織機の登録証の下に米井執行吏が差押の公示をしているから、同執行吏もそれを見た筈であるというのであるが、仮りに、米井執行吏が差押えの公示を登録証の下に貼ったとしても、同執行吏は、前述のように、本件物件は名義上は控訴人靖の所有、控訴会社の占有になっているけれども、それは執行を妨害するための虚構で、真実は、控訴人裕一が所有し、占有使用しているものであると信じていたので、同執行吏が同登録証の内容を見たことの証拠にもならないし、また右内容を見て本件物件が控訴人裕一以外の者の所有占有に属することを認識したことの証拠にもならない。

以上認定した事実関係に徴すれば、本件物件の所在する工場はもと控訴人裕一個人の所有に属し、同所における営業も、工場およびその中の機械である本件物件の占有使用も名実共に同控訴人個人に属していたが、控訴人裕一は、主として金融上の必要から、工場および本件物件の所有権を当時弱年で経済的にもっぱら控訴人裕一に依存していた控訴人靖に名義上譲渡し、他方経済的実質において控訴人裕一個人から独立した企業体としての実を伴わない名義上だけの存在である控訴会社を設立し、右工場における営業権と工場および本件物権の占有使用権を同会社に無償譲渡したことにし、同会社名義で同所における営業の認可を受け、本件差押え当時、控訴会社が本件物件を占有使用中であるかのように見える偽装をしていたが、当時、真実には、同工場における営業の経営も工場および本件物件の占有使用も、すべて控訴人裕一個人に属していたことを認めることができる。そうすると、本件物件を控訴人裕一の占有に属する動産として差押えた米井執行吏の所為は正当で、これを執行吏としての職務上の権限を逸脱した違法な執行と云うことはできない。この点に関する控訴人靖の主張は理由がない。また米井執行吏は、本件物件を差押えた当時、本件物件が控訴人靖の所有に属することを知りながら、またはこれを当然知ることができる状況にあったにもかかわらず、右物件が控訴人裕一の所有に属するものとして差押えたのは執行吏の職務上の権限を逸脱した違法な執行である旨の控訴人靖の主張については、執行吏は有体動産の差押えに際し債務者の占有に属する動産を差押えるべきで、その所有関係の知識に基づいて右占有関係の知識にもとる差押えをすることは許されないから、右控訴人の主張は主張自体理由がない。また、右執行当時、執行吏は本件物件が工場抵当物件であることを知らず、かつ、控訴人らの側から執行吏に対しその旨の資料の提出もなかったのであるから、本件差押は執行吏の適法な職務の執行に当るものというべきである。

(二)  控訴人靖は本件差押は債権に比して過大な価額を有する物件につきなされているので、民訴法五六四条二項に反するものであると主張するが、以上認定の事実関係によると、本件差押はその目的物件がその設置された工場内でそのまま使用できる物件として差押えたのではなく、他所に搬出設置して使用するほかない物件として差押えたのであるから、その価額は後記(六)のとおりと認めることができる。よって同項の記載をここに引用する。結局本件物件は本件競売において四五万五、〇〇〇円をもって競落され、右価額は動産の競売価額として不当に安価であったとは認められないから、控訴人靖が主張する残債権自体よりみても過大な価額の物件を差押えたことにならず、控訴人靖の主張は採用しない。

(三)  控訴人靖は、同控訴人において本件差押の強制執行停止を申し立てたところ、裁判所より四月二八日までに右執行停止決定のための保証を供託することを命ぜられたのであるから、同控訴人には同日まで競売の実施を受けない期限の利益があり、執行吏は少くとも同日までは競売をすべきではない、また、執行吏が差押後、競売までに本件物件が工場抵当物件であることを知っていたにもかかわらず、その競売をしたのは違法であると主張するので、この点につき判断をする。

≪証拠省略≫を綜合すると、

控訴人裕一は、本件差押後、昭和三五年四月二〇日に控訴人靖名義をもって米井執行吏あてに本件物件の所在した工場建物の登記簿謄本および工場抵当動産の目録と共に本件物件が鐘淵紡績株式会社(以下鐘紡と云う)を権利者とする工場抵当法に基づく抵当物件であることを通知する書面を内容証明郵便で送付したところ、同執行吏は、正式に訴訟手続をするようにとの勧告書と共に右郵送に係る書類を控訴人靖宛に返送した。そこで、控訴人裕一は本件物件が鐘紡の抵当に入っているので、鐘紡に強制執行阻止の処置をとらせるつもりで、とりあえず鐘紡に対して本件物件が差押えられたことを通知したところ、鐘紡は同月二六日に米井執行吏あてに差押解放申立書を提出した。他方、控訴人靖は同日、被控訴会社を被告として、本件物件は自己の所有物であってこれを控訴会社に貸していることを理由として大阪地方裁判所岸和田支部に第三者異議訴訟を提起し、本件差押の執行停止を申立てたところ、同裁判所より執行停止の保証として二〇万円を同月二八日までに供託するように命じられたが、本件差押と同時になされた他の物件については控訴人裕一名義をもって執行停止のための保証金を供託して、執行停止決定を得ながら、本件については保証を供託しなかったために執行停止決定は得られず、結局、後日、申立を却下されるに至った。そして、他の物件についての右決定正本を四月二六日に米井執行吏あてに提出した際、執行吏役場事務員に翌二七日午前中に本件物件の停止決定正本を提出すると告げた。一方、米井執行吏は差押後には右の経過により本件物件が工場抵当物件であるかも知れないと考えてはいたが、昭和三四年一〇月に開催された大阪高等裁判所管内執行事務会同において本件のような事実に強制執行停止決定正本の提出されない限り執行を行うを妨げないとの協議結果もあったので執行吏代理京屋新一に対し右協議結果の趣旨を書面をもって通知した。そこで同執行代理は競売期日に控訴人靖から執行停止決定正本の提出がなかったので、後記のとおり本件競売を実施した。以上の事実を認定することができる。

裁判所が四月二八日までに供託をするように命じたことをもって四月二七日の競売期日が延期される期限の利益があるとの主張は独自の見解であって採用できない。

執行吏は、一旦適法に有体動産を差押えた場合には、債権者より解放申請があれば格別、債務者又は第三者から差押を解放してほしい旨の要求に応じてただちに差押を解いたり、職権をもって差押を解いたりする職務上の権限がなく、裁判所の強制執行停止又は取消決定正本その他民訴法五五〇条所定の書類の提出があって、はじめて、執行を停止又は取り消すことができる(民訴法五五〇条参照)。従って、本件のように、差押後に工場抵当物件であることや、第三者の所有であることを証する登記簿謄本が執行吏に提出されても、執行吏としては、強制執行停止又は取消決定その他民訴法五五〇条所定の書類の提出もないのに右登記簿謄本の提出があったからと云ってこれに基づいて執行を取り消すことはできない。

工場抵当法により工場に属する土地又は建物と共に抵当権の目的となったその土地又は建物に備付けた機械、器具その他工場の用に供する物(以下工場抵当の目的たる機械等、又は単に機械等と云う。)を、抵当権者以外の債権者の委任により執行吏が動産として差押えた場合に、債務者その他の者から執行吏に対して、民訴法五五〇条所定の書類の提出がなく、ただ単に登記簿の謄本その他右機械等が工場抵当の目的物件であることを証明する書類を提出して強制執行の停止又は取消の請求があったときに、執行吏が強制執行を続行して右機械等を競売することができるかどうかの点に関する法律の解釈適用に関しては、本件競売当時学説および実務の取扱い上二説があった。その一は、執行吏は民訴法五五〇条所定の書類の提出がない限り右機械等を競売することができ、且つ競売しなければならないとする説であり、その二は、執行吏は、機械等の差押え後に債務者その他の者から機械等が工場抵当権の目的物件であることを証明する書類の提出を受けてその旨を知った後は、強制執行を取消すべき職務上の権限こそないが、強制執行を続行して右機械等を競売してはならないとする説である。本件競売当時には、前記大阪高等裁判所管内執行事務会同の協議の結果に徴しても明らかなように、実務の取扱い上では前説の方が通説であったのである。法律の解釈適用に関し学説又は実務の取扱い上二個以上の説がある場合に、官公吏がその中の一説を正当と信じてこれに従って職務を執行した場合には、たとえその説が誤謬であることが後日判明したときにおいても、右官公吏の職務執行行為を故意過失に基づく違法な行為と云うことはできない。そして、このような官公吏の職務行為の結果の是正は、利害関係ある者から裁判所又は上級の官公庁等右執行行為を取り消し又は変更する権限ある者に対して適法な訴又は申立を為し、その取り消し又は変更を求めるほかなく、右訴又は申立を適法になし得る期間を徒過して後は当然その是正の道は失われる。したがって、このように是正の道が失われた責は右訴や申立をしなかった者に帰すべく、よって生じた損害につき国や公共団体に賠償を求めることはできない。

本件の場合には、米井執行吏は前述のように当時の実務上の通説を正当と信じて、その説に従って本件物件の競売をしたのであるから、たとえ右通説が誤謬であったとしても、右競売を故意又は過失による違法な執行と云うことはできない。そして右競売の結果、控訴人靖に損害を生じたとしても、それは執行異議の申立により、本件強制執行の取り消しを求めなかった同控訴人自身の責に帰すべきもので、米井執行吏の責任に帰すべき事由により生じたものではない。したがって、同執行吏が差押後に本件物件が工場抵当物件であることを知りながら、なお本件物件を競売したことをもって違法執行であると主張し、右主張を前提として、よって生じた控訴人靖の損害の賠償を国に請求する同控訴人の主張はすべて理由がない。

(四)  控訴人靖は京屋執行吏代理が競売にあたって関連法規を遵守していなかったと主張するので、この点につき判断をする。

≪証拠省略≫によれば、京屋執行吏代理は昭和三五年四月二七日に本件物件所在地である控訴人裕一の住所地に至ったところ、鐘紡社員小池伸二郎から弁護士作成の執行停止申請の書類を手交されたが、同人に対して、裁判所の執行停止決定正本がない限り競売を実施する旨を告げ、さらに、右小池に競買に参加するかどうかを尋ねたところ、小池は参加しないと答えたが、工場内にとどまっていた。京屋代理は午前八時一七分頃から工場内の管巻機と整経機の中間の位置で競売に着手し、民訴法五七七条の各条件を告知し、申出価額を三回呼上げ、競買申立人を競落人と定め、物件を競落代金とひきかえに競落人に引渡し、午前八時三〇分に競売手続を終了し、動産競売調書には債権者代理人藤野憲一、競買人兼証人高井昭治、証人墨谷昭光の署名押印を求め、岩淵キヨ子は工場内で出会った人という意味で右調書に名前を記載し、特に署名を求めることはしなかった。

以上の事実を認定することができ(る。)、≪証拠省略≫のうち、右認定に反する部分はこれを採用しない。他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上認定事実によると、本件競売手続は適法に実施されたものというべく、控訴人靖の主張はいずれも採用しない。なお、右墨谷、高井に競売の証人資格がないという証拠はみあたらず、また、現行法上競売にあたって、債務者側の証人を必ず立ち会わすべき根拠はない。

(五)  控訴人靖は本件競売が公告されていないと主張するけれども、≪証拠省略≫によると、米井執行吏の役場の掲示板に本件競売の公告をしたことが明らかであるから、右主張は採用しない。

(六)  控訴人靖は本件物件の競落価額は低く、価額を鑑定させて競売すべきものであると主張するので、この点につき判断をする。

本件物件は民訴法五七三条の高価物には該当しない。すなわち、同法の高価物とは、金銀、宝石など特別に価値を有する物品を指称するのである。従って、同法による鑑定をする必要はない。≪証拠省略≫によれば、米井執行吏は従前泉州地方の織機の競売を担当した経験も有していたので、この経験に基づいて本件物件の価格を評価して見積り価額としたものであることが認められる。しかしながら、有体動産の競売においては、不動産競売と異り、最低競売価額を定めてこれを公告すべき旨の規定は民訴法上存しないから、執行吏が評価する見積価額は執行債権との関係で過大な差押をしないための一応の計算の基礎となるもので、かつ、競売にあたっての一応の基準たる意味でしかない。いかに、高額に見積っても、その額で競売できなければ、それ以下の価額で競売せざるを得ないことになる。通常、競売においてはすでに何年か使用された物品が、競売時の新品の時価より極めて低額をもって競売されるものであることは極めて顕著な事実でもある。その上、本件競売では目的物である機械はその設置場所である工場内でそのまま使用できる物件として競売されたのではなく、他所に搬出して適当な場所に設置して使用すべき物件として競売されたのであるから、その競売価格がその設置場所である工場内でそのまま使用できる場合より安価であるのは止むを得ないことである。また、控訴人靖主張の工場抵当権の被担保債権の額は、工場建物および同工場内に設置された機械を抵当権の目的物件とするものであるので、右工場から切り離された本件物件の価額を評価する基準となるものではない。以上の次第で、本件物件の競売価額が低きに過ぎるものとは思われず、控訴人靖の主張は採用しない。

(七)  控訴人靖は本件競売が不正談合に基づくものであると主張するけれども、これを認めるに足りる証拠は存せず、却って、以上認定のとおり適法になされたものと認めることができるので、右主張は採用しない。

(八)  そのほか、控訴人靖は、本件差押もしくは競売が憲法二七条、二九条の各権利、控訴会社の営業権賃借権を侵害する、刑法一三〇条に該当する原判決は民訴法一八五条の自由心証主義を濫用していると主張するけれども、以上の判示に徴し、いずれもその理由がないこと明白であるので、採用しない。

よって、米井執行吏および京屋執行吏代理のなした本件差押、競売が執行吏の職務上の権限を逸脱するものであったことを前提とする控訴人靖の被控訴人国に対する請求は、その余の点につき判断をするまでもなく失当というべきである。

二、控訴人靖の被控訴会社に対する請求

(一)  控訴人靖の主張のうち、被控訴会社は執行吏に委任して控訴人裕一を債務者とする債務名義に基づいて同控訴人の有体動産の強制執行をするに際し、米井執行吏と共謀の上または情を知らない同執行吏に委任して、同執行吏をして控訴会社占有中の本件物件を控訴人裕一占有中のものとして差押え競売させ、よって右物件の所有者である控訴人靖に対して損害を被むらせた旨の主張部分については、さきに控訴人靖の国に対する請求についての判断中で判示したように、本件物件は本件差押え当時控訴人裕一が占有使用していたことが認められるので、右物件の占有が控訴会社に属していたことを前提とする控訴人靖の主張は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がない。

次に、本件差押え当時本件物件は控訴人靖の所有に属していたにもかかわらず、被控訴会社が米井執行吏と共謀し、又は情を知らない同執行吏に委任して、本件物件を控訴人裕一の所有に属するものとして差押えさせ、その後も右差押えを解放することなく遂に競売するに至らせ、よって控訴人靖に損害を被らせた旨の主張については、さきに控訴人靖の国に対する請求についての判断中で判示した認定事実に徴すれば、本件物件は以前には控訴人裕一の所有に属していたし、本件強制執行当時控訴人靖は二〇才前後の弱年で経済的に父である控訴人裕一に依存していたから、被控訴会社は本件強制執行の経過中終始、本件物件は名義上は控訴人靖の所有になっているとしても、それは偽装で、実質上は控訴人裕一の所有に属するものであると信じていたこと、および、当時の状況下では被控訴会社が右のように信じたのはもっともで、仮に被控訴会社の右認識が誤認であったとしても、これを同会社の故意過失によるとは云えないことが認められるので、米井執行吏に委任して本件物件を差押え、それを解放することなく維持し、遂に競売させた被控訴会社の所為は、不法行為の要件である故意過失を欠き、不法行為には該当しない。したがって控訴人靖の右主張は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がない。

(二)  次に、本件物件は工場抵当法による工場抵当権の目的物件であったから、右事実を知りながら、執行吏と共謀し、又は同執行吏に委任して、本件物件に対し有体動産の強制執行手続による差押え競売を実施させ、控訴人靖に損害を被らせた旨の控訴人靖の主張について判断する。

≪証拠省略≫によると、被控訴会社は控訴人裕一らに対して金員を貸与し、右債権を担保するために、本件物件および本件物件の所在する工場建物について被控訴会社を権利者とする第三順位の工場抵当法による抵当権を設定し、被控訴会社において右抵当権設定登記手続を担当し、右登記手続の附属書類であって、同抵当権の目的たる動産等を記載した動産目録を目撃したことが認められ、≪証拠省略≫によると、本件差押調書には債権者たる被控訴会社の代理人が署名押印をしているし、また、≪証拠省略≫によると、本件の競売を実施した京屋執行吏代理は、競売実施に先立って被控訴会社社員藤野憲一を通じて、工場抵当物件でも強制執行停止決定のない限り、競売してもよい旨の米井執行吏作成の文書を受領していることが明らかであるから、被控訴会社側は差押後は少くとも本件物件が工場抵当物件であることを確実に知っていたものと推認することができるが、被控訴会社は、執行停止決定のない限り執行を妨げない旨の米井執行吏の判断を正当と信じて、差押の解放を申請することなく競売を実施するに至らせたものであって、このような事情のもとでは、被控訴会社が本件物件が強制執行することができない物件であることを知りながら敢て執行吏をして競売をさせたものとはなし難く、被控訴会社が差押を解放しなかったことをもって故意又は過失によるものということはできない。

(三)  次に、被控訴会社が米井執行吏と共謀して又は情を知らない同執行吏に要求して、債務名義表示の債権額を著しく超過する価額の本件物件を差押えさせ、右物件の価額を鑑定もしないで著しく安価に評価し、右物件を当時の時価より著しく低額に競落させ、控訴人靖に損害を被らせた旨および、被控訴会社が京屋執行吏代理と共謀して又はそそのかして、本件物件の競売期日に各種の法規違反の手続で競売を実施させた旨の控訴人靖の主張について判断する。

控訴人靖主張の執行吏又は執行吏代理の右各行為が同人らの職務上の権限または義務に違背する行為または不行為に当るものではなかったことは、さきに国に対する控訴人靖の請求についての判断中で判示したとおりである。したがって、これらの点について執行吏又は執行吏代理を共犯者とする被控訴会社の不法行為は成立しないこと明らかである。また、被控訴会社が執行吏の執行行為を手段として前記の各不法行為をした旨の主張に当る部分については、被控訴会社係員が執行吏又は執行吏代理の虚偽の事実を告知したり、ことさらに真実を黙秘して執行吏又は執行吏代理をして誤った執行行為をさせた事実を認めるに足る証拠がないので、右主張は採用しない。

次に、控訴人靖は、被控訴会社が本件の競売における不正談合に関与した旨主張するが、右主張の談合のあったことは認められないことは既に判示したとおりである。

よって、これらの点についての控訴人靖の主張はすべて理由がない。

以上のように、本件においては、いずれの点においても、被控訴会社が、故意又は過失に基づいて、執行吏をして違法に本件物件を、差押競売させたことは認められないから、右主張を前提とする控訴人靖の被控訴会社に対する請求は失当である。

三、控訴人靖の被控訴人藤原に対する請求

被控訴会社が故意又は過失により不法に控訴人靖の権利を侵害したことが認められないことは前示二において判示したとおりであるから、被控訴会社の代表取締役たる被控訴人藤原も同じく被控訴会社の代表取締役としてした本件強制執行に関する行為又は不法行為につき賠償責任を負わないことは明白である。

四、控訴会社の被控訴人らに対する請求

前示一ないし三において認定したのと同様の理由により被控訴人らには控訴会社に対して損害賠償責任を負うべき事由は認められない。これに反する当審での控訴会社の主張は採用しない。よって控訴会社の被控訴人らに対する請求はいずれも失当というほかはない。

以上の次第で、控訴人靖および控訴会社の被控訴人らに対する請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却すべきである。

第二、六四八号、六五九号事件

被控訴人国に関しては前示第一、一、被控訴会社に関しては同二においてそれぞれ認定したのと同様の理由により右被控訴人らが控訴人らに対して損害賠償の責任を負うべき事由は認められない。これに反する当審での控訴人裕一の主張は採用しない。従って、控訴人靖、同裕一の被控訴人国、被控訴会社に対する請求はその余の点につき判断するまでもなく、いずれも失当というほかはない。

以上の次第で、控訴人靖、同裕一の被控訴人国、被控訴会社に対する請求をすべて棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却すべきである。

よって、民訴法八九条九五条により控訴費用を控訴人らに負担させて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長瀬清澄 裁判官 岡部重信 小北陽三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例